今回、ブルキナファソでは日食を見ることができました。完全に金環日食になる地域ではなかったのですが、良いお天気(暑いともいう・・・)で、とてもよく見えました!
(おかげで、日焼け止めを塗っていたにも関わらず、おでこの皮がむけました・・・)
毎日、TVで保健省の「日食を直接見てはいけません。」というCMが流れていました。国連の番組でも、専門家が日食を直接見ると目を痛めることを説明していたり、日食グラスのCMをやっていたり、携帯電話会社のおまけにグラスがついてきたり。。。
日本の日食のときに使っていたようなものを、だいたい100円から200円くらいで販売していて、まあまあ、1回しか使わないことを思うと、安くはないお買い物です。だからでしょうか、これは商人の陰謀だ、私が子どもの頃は直接見ても大丈夫だった、などと語りだす人々も。
でも、直前になると買い始める人が多くなりましたが、やっぱり気になるのかな、くらいに思っていました。
当日の朝。同じ敷地内に住む女性が携帯に向かって大声で「私、怖いのよ!家から出ないわよ」と話していました。その後、私は外出し、いつものように石鹸をつくってくれている研修所でお仕事をしていました。
日食直前になったので、お昼を食べるついでに家で日食を見ようと帰りはじめました。すると、なんだか町の様子がおかしい。人がいないのです。
その日は週に一度、マルシェが立つ日。いつもは人や車でごった返す日です。ところが普段と変わらないほどの人出しかなく、一瞬、平日と勘違いしたほど。
でも、日食で頭がいっぱいだった私は、「あれ」っと思った程度で、家でゆっくりお昼を作り、食べつつ、日食を楽しみました。
で、夕方。パンを買いに行ったのです。すると、どこを探してもパンがない。たまりかねて、何軒めかで「どうして?」と聞くと、なんと、パンやさんの従業員が出勤してこなくて、工場を稼働させることができず、パンが売り切れてて仕入れることができなかったとのこと。
バンフォラ市はさほど大きな町ではないですが、それでも少なくとも5-6か所でパンを作っています。すぐにパン工場に行ってみたのですが、いつもは24時間稼働しているパン屋さんも、すべて閉まっていました。
周囲の人の話を総合すると、あまりにもTVやラジオで日食を直接見ることの危険性を強調しすぎたため、一般の人たちは「日食のときに外にいると失明する」と勘違いしたようです。
どうりでマルシェにも人がいなかったわけです。みんな怖かったのです。
これって、保健分野で活動してる私には、とてもよい復習になりました。本当に啓発って難しい。行動変容って難しい。学校教育を受けたことがない人たちが多数いるところでは、ロジックやメカニズムを説明しても、どう理解されるかは別のお話。
ワークショップや研修で、説明はわかりました?って尋ねても、「わかった」と答えてくれるから、私たちが伝えたかったように理解してもらえたと思いがち。でも、実際にどこをどう理解されたかはわからない。
だから、リスクだけを強調すると、思いがけない方向に行動変容が起こることがある。HIV/AIDS予防などでも、恐怖アプローチというのはよくない(注)というのは、既に関係者間では常識となっていますが、改めて、恐怖を煽るようなアプローチはよくない結果が多いと実感。
まさか、町全体でこんなことが起こるなんて。もしかしたら、国全体だったのかしら?確認はしていないですけれど、とってもびっくりしたのでした。
(注)HIV/AIDS予防では恐怖アプローチがよくない、とは?
HIV/AIDS予防の分野では、今までの啓発活動で様々な失敗事例を教訓にしてきました。そのうちのひとつが「恐怖アプローチ」はよくない、ということです。具体的には「死」への恐怖を想起させるような啓発メッセージやイメージを啓発で使用するというものです。
たとえば、 こんなポスター。
人は怖いと、病気とその病気の人を拒否して差別につながるか、病気から逃げたい・知りたくないので検査を受けない、といったことになります。なので、啓発するとき、死への恐怖と結びつけるのではなく、どうしたら予防できるかや、発病を抑える薬剤があることを伝えるようにシフトしてきました。
でも恐怖メッセージって、リスク・メッセージ(リスクがあることを知らせるメッセージ)と紙一重のことが多くて、感性によって評価が分かれることも。きっと、ブルキナの件もリスク説明だったはず。ところが、意に反して人々は強い恐怖を感じてしまった、ということなのでしょう。
HIV/AIDSでは、他にも、世界的に所謂「予防疲れ」などで予防行動へのモチベーションが下がっていると考えられる事例が複数見られたり、日本では医療機関に来た時点でAIDSを発症している、といったことも問題視されています。
感染する原因が複雑なので、予防啓発もターゲットごとに細分化したり、もっとマクロなアプローチ(社会システムを変えるなど)が必要だったり。予防行動自体を魅力的に感じるようにアプローチすることも多くなってきた印象。(EX: HIV/AIDS予防の場合=コンドームがセクシー、 蚊帳の場合=蚊帳を使っている家は家族のことを考えていてハイレベル、など)
ところが、一度、予防啓発・行動変容に成功したからといって、ずっと続くとは限らない・・・
啓発とか行動変容って奥が深いです・・・